JOTS Quality
熱処理に ついて
Heat Treatment
オーステンパ球状黒鉛鋳鉄
(Austempered Ductile
Iron=ADI)
球状黒鉛鋳鉄(※)をオーステンパ処理し、引張強さ・靭性・耐摩耗性を向上させたものをオーステンパ球状黒鉛鋳鉄といい、英語のAustempered Ductile IronからADIと略されます。 1950年代よりアメリカ・イギリスで量産化に向けた技術開発が進められ、1970年代に本格的な商用生産が始まり、自動車ではエンジンのクランクシャフトをはじめ、リングギアやピニオンギアなどで実用化されてきました。その後、日本や中国など各国で多種多様な製品が量産されています。
※“延性がある”を意味する英単語“Ductile”から、ダクタイル鋳鉄ともいう。また、JISの材料記号の一部から“FCD”と略されることが多い。
オーステンパ処理とは?
オーステンパ処理は、鋼をベイナイトと呼ばれる組織に変化させる熱処理です。そのプロセスは鋼をオーステナイト化温度まで加熱して炭素が均一に分布するまで保持し、200~400℃の溶融塩などに浸漬して急冷し、ベイナイトに変態させつつ一定時間保持して組織を安定させます(恒温変態)。その後、常温まで冷却させます。 球状黒鉛鋳鉄にオーステンパ処理を施すことによってADIへと変化させることができ、この処理を“ADI処理”と略されることがあります。
ベイナイトとは?
アメリカの冶金学者エドガー・コリンズ・ベイン(Edgar Collins Bain 1891-1971)により発見された金属組織で、ベイナイト(Bainite)は彼の名前に由来します。
ベイナイトはフェライト(α鉄)と微細な粒状セメンタイト(鉄と炭素の化合物:Fe₃C)からなる針状組織で、急冷して保持する等温温度(恒温変態する温度)、350℃を境に、それ以上の温度域で得た組織を上部ベイナイト、それ以下の温度域で得た組織を下部ベイナイトと呼びます。
近年では、ADIの組織には鋼の組織のようにセメンタイトが析出しないことから、ISO規格やJIS規格ではベイナイトと区別するためオースフェライトと呼んでいます。
オーステンパ球状黒鉛鋳鉄品の主な特徴
- ・高強度と高靭性の両立が可能。
- ・耐摩耗性に優れている。
- ・加熱温度から急冷したときの温度差が小さいため、歪が発生しにくく焼き割れしない。
鋳造後のFCDの組織
ADIの組織
球状黒鉛鋳鉄のオーステンパ処理のヒートパターンと基地組織の変化
恒温変態温度の違いにより…
350℃以上で
上部ベイナイト
FCAD900-8の組織
350℃以下で
下部ベイナイト
FCAD1400-1の組織